診療のご案内 | 口唇裂の治療
口唇裂の治療
口唇裂とは
出生前、胎児期の初期では口唇3つのパート、口蓋は左右2つのパートに分離しています。胎生の4-12週目でこれらが融合し、生まれる時には口唇・口蓋がひとつになっています。
しかし何らかの原因で、まれに、この部分が融合しないまま生まれる赤ちゃんがあります。
このような口唇口蓋裂の発生率は、約500人から600人の新生児に一人と、比較的多い先天異常のひとつです。
口唇裂の程度は劣の深さ、口蓋裂との合併の有無などによりさまざまです。
癒合不全(裂)が口唇のみに止まる唇裂、歯茎に及ぶ唇顎裂、口蓋にも及ぶ唇顎口蓋裂などがあります。唇裂にも、口唇のみの不全唇裂と鼻孔の中まで裂のある完全唇裂、両側にわたる両側唇裂があります。
また、唇裂による影響は鼻の形態にも大きく関与し、通常、赤ちゃんは鼻にも変形が存在しています。
手術方法
唇裂の治療には、いろいろな手術方法が考案されています。これらの中で現在最も多く用いられているのは、三角弁法、ミラード法、その両者を組み合わせた方法(ミラード+小三角弁法)などです。
1.三角弁法(テニソン・ランダール法)
これは、披裂側の口唇に三角弁を作製し、この三角弁を中央の口唇に挿入することにより自然な口唇の形が得られる術式です。この方法は一般的に、不全唇裂など軽度の唇裂に適用されます。
2.ミラード法
これは人中に沿った切開の上方に三角弁を組み合わせた方法で、一般的に完全唇裂に適用されます。
3.ミラード+小三角弁法(鬼塚法)
わが国では現在、ミラード法に小さな三角弁を併用する方法が広く用いられています。
4.マルキン法
これは両側唇裂に対して普及している方法です。
この手術で大切なこと
1.縫った傷跡が目立たないこと。
形成外科医がていねいに口唇を縫い合わせると傷跡はきれいで目立たなくなります。完全に傷跡が消えてなくなるということはあり得ませんから、傷跡は口唇の輪郭線の中にまぎれこませる必要があります。従って、手術時のデザインでは、傷の線を人中と呼ばれる唇の中央部にある溝と隆起にあわせるように設計します。また、東海大学では目立ちやすい横方向の縫合線は鼻の穴の中に入るように工夫しています。
2.手術前の顎矯正・口蓋矯正を行い、裂の幅を狭くしておくこと。
これにより口唇の裂もよく寄せておくこと。
完全裂や完全裂に近い深い裂を有する口唇の場合には、裂の部分で左右の口唇が遠く離れてしまっている患者さんが殆どです。この広い裂は、唇が作られる際、単に左右が癒合しなかったり一部欠損したというだけでなく、その後の子宮内での発育の過程でどんどん離れて広くなってしまったものです。ほとんどの場合、裂の幅というのは本来の欠損よりもずっと広がってしまっています。この遠く離れている左右の唇を無理に引き寄せて縫合すると非常に強い緊張が生じます。
また、この無理に寄せてくる操作は手術デザインにも影響します。
東海大学では術前顎矯正装置を赤ちゃんの口の中に装着し、裂幅を狭くして、左右の口唇を近づけてから手術を行っています。
赤ちゃんはこの装置を取り付けたあともそれまでと変わらずにミルクが飲めます。装置の装着は全身麻酔をかけて行いますから痛いこともありません。装置にはネジがついていますから、ご家族が自宅で毎日回してあげてください。この顎矯正が完了するには1~2ヶ月の期間が必要です。
この装置を使用してから手術を行う施設は、まだ国内ではわずかしかありません。私たちは98年からこの術前顎矯正装置を使用し始めましたが、この装置の効果は非常に高く、今ではこれを使わないで赤ちゃんに手術をすることは考えられません。
必要な患者さんにはこれらの準備をしてから手術を行いますので、東海大学病院では口唇の手術を行う時期を次のようにしています。
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口蓋裂がなく、口唇裂単独の患者さん・・・・生後3ヶ月
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口蓋裂があり、口唇裂幅の広い患者さん・・・生後6ヶ月
3.唇の筋肉を正しく縫い合わせること。
唇をすぼめたり広げたりする運動機能に問題が残らないように、唇の筋肉をきちんと縫い合わせることです。これが行われないと口唇を安静にしているときにはきれいに見えても笑ったり、口を動かしたときには陥凹となって目立つことがあります。
4.左右のバランスの取れた形態を再建すること。
傷跡自体の目立たないことも大事ですが、口唇全体の形がよいことはもっと大切です。東海大学では術前顎矯正装置を用いて列を狭くし、口唇を前後左右のバランスが整った位置にしてから手術を行っています。
しかし、左右対称なバランスの取れた再建はしばしば非常に困難です。完全裂や完全裂に近い深い裂を有する口唇では、もともと裂の生じている側の口唇がとても小さいので、赤ちゃんの時の手術(初回手術)だけでは限界があるのです。
このバランスをとるための手術のひとつとして、東海大学では5~6歳で頬部の脂肪組織を採取して、やせている側の赤い唇の中に移植してよい結果を得ています。頬部の脂肪組織は口の中から5mmくらいの切開で採取し、口の中の傷跡もほとんどわかりません。移植して6ヶ月程度待つと柔らかく違和感ない状態になります。
5.手術は根気よく何回にも分けておこなうこと。(2次修正、3次修正)
口唇裂の手術は初回の1回だけで完了ということもあります。すばらしいことですが、不完全裂で裂が浅い場合など、変形が少なく左右のバランスも良好な患者さんです。
通常は良好な形態を得るためには何回にも分けて手術を計画していきます。一度手術を受けた口唇も、だんだん成長に伴って上下方向の長さのバランスや横幅などに変化が出てきます。健常側と裂側とで成長の両や方向が微妙に異なるからです。
〈2次的形成手術〉
初回手術で残された瘢痕が目立つ場合や、鼻孔や鼻翼の変形に対して、2次、3次適的に口唇・外鼻形成手術を行ないます。
2次的口唇・外鼻形成手術は、就学前の5~6歳がひとつのめどとなります。それ以降は、変形の程度と年齢に応じて、患者さんのご家族やご本人と相談しながら適宜形成手術が行われます。
また口唇裂は鼻の変形も同時にともないますが、ほとんどの患者さんは鼻のかたちを修正する手術を2次手術として受ける必要があります。
顔面の中でも特に鼻は、成人になるまでに必要な成長発育の量が多く、また行われた手術による影響も受けやすい部分だということが分かってきました。
生後3~6ヶ月頃に行う初回手術の時には、まだ鼻の軟骨が小さく、以後の外鼻の発育に障害をあたえないように慎重に行われる必要があります。
学会では、小さな赤ちゃんの鼻への手術を行うべきか行わない方がいいのか、結論は出ていませんが、その後の成長発育を障害しないように十分注意して適切な時期に行うべきことは確かです。
東海大学形成外科でも手術の回数は少ないほうがよいと思いますが、手術は部位や内容に応じて、最もふさわしい年齢で行うように心がけています。
東海大学では次のような時期のうちのいずれかで複数回手術を行っています。
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赤ちゃんのときの手術
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小学校入学前の5~6歳頃
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歯科矯正において重要な顎裂骨移植を行う7~8歳頃
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中学入学前の11歳頃
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15から17歳頃
初回手術以降の修正手術で修正される対象は次のようなものです。
鼻の変形
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斜鼻
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鼻翼の変形
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鼻孔の変形
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鼻孔底の変形
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鼻翼基部の変形
唇の変形
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唇の傷跡
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唇の長さ
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赤唇の厚み